近所では無い場所へ。

近所では無い場所へ。

高校の時、カリキュラムの遠足を心待ちにするクラスメイトがいた。

彼の名前は山口くん。
山口と自分は身長が20cmも違ったし、部活も全然違ったけれども登下校のルートが同じというだけの理由で仲良くやっていた。まるで念仏でも唱えるかのように「もうすぐ遠足」と言っていた。奈良県の古墳巡りが楽しみでしょうがなかったそうだ。自分は古墳に興味がなくて「遠足なんかダリィ」と述べる派だったのだけど、楽しみにしている山口を見てるのは気分が踊った。

いつものように本当は通学してはいけない乗り物(自転車)に本当は一人じゃ無いとダメなものに二人乗りしながら、前でペダルを回す山口が「遠足楽しみやなぁ」と言った。校門の前には生徒指導の先生が鬼のような顔をして我々のようなけしからん生徒を取り締まるべく駐屯している。先生に発見される前に自転車のステップから飛び降り、山口だけが一人で登校をする形を取った。飛び降りて、後ろから登校してくる高妻くんに声をかけられたので振り向いて挨拶を交わすと、後門の前からトラックの急ブレーキと衝突音が聞こえた。

振り向き直すと、山口と自転車が宙に舞っていた。

トラックに跳ねられた直後から右腕の激痛を訴えて、そのまま山口は校門をくぐる事なく救急車に乗せられ病院に担ぎ込まれた。部品やチェーンがバラバラに分離するほど自転車は破損したにもかかわらず、山口は右腕の骨折だけで命に別状はなく、翌日から登校してきた。日頃の不良生活のおかげで、山口も自分もタンイというものが足りて無くて、槍が降ろうが骨折しようが授業を受けねば留年の危機にあった。

「足じゃなくてよかったわ、遠足は行けるわ」

と、遠足の一週間前の朝、ニコニコ笑いながら山口は言った。

遠足の日。
山口は来なかった。あんなに楽しみにしていたのに腕以外にどこかに異常が見つかったのだろうか? 遠足は山口抜きで行く事になり、帰るやいなや、ぼくは山口の家に行った。インターフォンを鳴らすと山口のお母さんが残念そうに出てきて「…片岡くん…」と言って病院の住所を教えてくれた。慌てて教えられた病室まで行くと、ベットに横たわる山口がいた。山口の体には右腕ともう一箇所、右足にそれぞれギプスがはめられていた。遠足が楽しみすぎて自宅の階段で踊っていた所足を踏み外して滑って折ったらしい。

「おやつは500円まで。バナナはおやつに含まない」

と告げて病院を後にした。
1週間後、無事退院をした山口を、今度は自分の自転車の後ろに乗せてペダルを踏んだ。もちろん学校はサボりだった。

決して近所では無い場所にある大きな公園へ二人っきりで遠足に行った。山口とぼくはそこでバナナを剥いて頬張った。

そんな思い出深い公園へと、行ってきた。
もうすっかり冬の支度を進めている木々の合間を縫うように、鴨が行進をしていた。大人になったからもう遠くは感じない距離だけど、あの頃の自分たちにとってはとてつもない遠足だったなぁ。

山口。今度ぼくが行く遠足の行き先は、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティっていうめちゃめちゃ遠い場所なんだぜ。

怪我しないようにするぜ。
たどり着いたらバナナを食うんだぜ。

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